オレが・・・、デイビットの・・・?

「MeはYOUに、こんな危ない仕事は、辞めて欲しいと思っている。何故なら・・・」

デイビットは目を伏せ、辛そうに眉間に皺を寄せた。
戸惑うように口を開き、閉じる。
何度か繰り返した後、決心したようにデイビットが口を開いた。

「Meはジュウダイ・・・。YOUを愛してしまった。初めて見たときから、ずっと・・・」

愛・・・してる?
突然のデイビットからの告白。
オレは何を告白されているのか理解できず、目を大きく見開いた。
掴まれている右手が熱く感じる。
心臓が早鐘を打ち、耳の裏を強く圧迫される感覚がオレを襲った。
オレは、何が何だか分からなくなり、ただデイビットを見つめるばかりだった。

「ジュウダイは、どうデスか?Meの事をどう思いまスか?」

燃え盛る情熱的な瞳がオレを射抜く。
オレは、そのデイビットの視線の強さに喜びと、・・・恐怖を感じた。
まだ、会って間もないというのに好意を寄せてくれるのは嬉しい。
それは確かだ。
でも、会って間もないのに愛を告白される程、お互いを知っている訳じゃない。
ましてや、デイビットは大企業の社長だ。
もし『殺し屋』であるオレに求愛をしたなんてバレたら、企業イメージに響かないか?

「嫌いじゃ・・・ない。でも・・・」
「でも・・・?」

オレなんか、デイビットの横にいるのは釣り合わない。
神を冒涜するような行為を選んだオレなんかが・・・。
オレは、デイビットの顔から視線を外した。

「オレは、ダメだ・・・。デイビットの告白は受けられないよ」
「Why?何故そんな事を言うんデス?ジュウダイ」

肩を掴まれ、体を揺さ振られる。
指が肩に食い込んで、痛い。

「オレじゃ・・・、デイビットの期待に応え切れない」
「NO!そんなこと、そんな事ありまセん!ジュウダイ!」

肩に食い込む指の力が、一層強くなる。
痛みで顔が歪む。

「いた・・・い。はな・・・せっ。デイビット・・・!」

肩を掴む指から逃れようと、肩を捻った。

「YOUも・・・そうなのか・・・?Meから・・・離れようとするのか!?」

真剣なデイビットの顔が近付いてきた。


キスされる・・・!


そう思い、オレは顔を伏せた。
しかし、そんなオレの考えを読んだのかデイビットはオレの首筋に顔を埋めた。

「お願いだ。・・・ジュウダイ。YOUには傍にいて欲しい。愛してるんだ・・・」

デイビットの言葉に俺は強張った体から力を抜いた。
ゆっくりとデイビットの背中に手を回す。
デイビットの体が微かに震えた。

「デイビット、・・・今、誰の事を考えてた?」

静かに耳元で囁く。
驚いたようにデイビットが顔を上げた。

「何を・・・言っているんだ。ジュウダイ。Meの心の中はYOUオンリーだ」

表情とは裏腹に冷静さを装うとする声が痛々しい。
昔の・・・デイビットの恋人。
その人がデイビットを裏切ったのだろうか。
だから、デイビットはオレなんかに”傍にいて欲しい”と言ってくるんだろうか。 オレはあやすように、デイビットの背中をゆっくりと撫で上げた。

「本当に・・・、デイビットの心の中にはオレだけ・・・なのか?」

勿論だ、とデイビットは言った。
それに対して、オレは嘘だと思った。
デイビットは自分の中で割り切ったような気になっているだけで、実際は根深く埋まり、心の傷になっている。
今も、切り裂かれた傷が赤い血を流して、叫び続けている。
寂しい、と。
だから、デイビットは会って間もないオレを傍に置こうとしているんだ。

「ジュウダイは・・・、Meの言葉が信じられない?」

悲しげにデイビットが眉を顰めた。
痛々しい表情が、胸に鋭く突き刺さった。
オレは身代わりだ。
誰かの・・・身代わり、だ。
そう思うと酷く胸が軋み、痛んだ。

「ジュウダイ・・・、何故何も答えない・・・。Meの所に来たくないから・・・、何も答えないのか?」
「違う・・・」

デイビットの言葉に思わず、反応してしまう。
そんなオレに一縷の望みを見つけたのか、デイビットはゆっくりと口を開いた。

「それなら、ジュウダイ・・・。一緒にアメリカに行こう。Meの家で・・・、暮らそう」

デイビットは、公私共々一緒に居たいと言ってくる。

「愛してるんだ・・・、ジュウダイ。だから、一緒に暮らそう」

デイビットはオレの手を頬に当てた。
温かいデイビットの体温が手を通して、ゆっくりと広がっていく。

「ジュウダイ・・・。お願いだ・・・」

縋るようなデイビットの瞳がオレを見つめる。
オレより地位もあって、名声もある。そんな男が、オレの腕を求めている・・・。
必要だと言ってくれる。

「わか・・・った。オレなんかの力が、役に立つのなら・・・」

オレが頷くと、デイビットは嬉しそうに破顔した。


あれ・・・?


不意に胸に湧き起こる既視感。
何処かで今の笑顔を見た記憶があると脳が言ってくる。

「ありがとう!ジュウダイ!では、早速支度をしよう!」

デイビットは立ち上がり、携帯を取り出す。
素早く指が動き、デイビットは携帯を耳に当てた。

「あぁ、Meだ。・・・ん?・・・うん。そうだ。・・・早急に準備しろ」

誰かに電話で指示を出している。
電話を終え、デイビットは携帯の電源ボタンを押した。

「さぁ、ジュウダイ。そろそろ行こうか」

腰を抱え、紳士的にエスコートするようにデイビットがオレを促す。
そっと後ろを振り向くと、恨めしげに不動がオレを見ていた。


違う・・・。
オレがやったんじゃない!


そう言いたいのに、声が出ない。

「ジュウダイ・・・?どうした?」

デイビットは、突然立ち止ったオレを、不思議そうに見てくる。
デイビットはオレが何を見ているのか分かると、ため息を吐いて先を急ごうと言った。

「何も悔やむ事はない。ジュウダイのおかげで、世界は救われた。YOUこそ、救世主デス」

デイビットを見上げると優しい笑顔があった。
慈しむような視線の先には、オレがいる。

「でも・・・、オレ・・・は・・・」

デイビットがオレの口元に人差し指を当てて、それ以上話すなと言った。

「大丈夫。YOUは、救世主なんだ」

何も心配する事はない。
デイビットはそう言って、にっこりと微笑んだ。